アテナオがフランスのトップYouTuber、Amixemの動画音声を「吹き替え」
通訳・翻訳会社のアテナオはこの度、フランスのトップYouTuber“アミクセム”の新作動画 « 難破したいかだで過ごす一日 »(仏語タイトルUNE JOURNÉE SUR UN RADEAU DE NAUFRAGÉS)の、英語吹替版を作成。これによりアテナオは、フランスにおいて初めて、YouTubeの新機能「多言語音声トラック」を通じてYouTube動画の吹き替えを行った多言語サービス会社となりました。
この動画は、アテナオが作成した英語吹替版を通じて、英語圏からの視聴数が倍増し「全く違和感なく、フランスのトップYouTuberの動画が楽しめた!」と、高い評価を得ています。
YouTubeが多言語音声の新機能を通じてトップに躍り出た!
今年に入るまで、YouTube、Tiktok、Vimeoなどの外国語吹替版を公開するには、言語ごとに動画をアップロードする必要がありました。
しかし、“1言語=1動画”とするこのシステムには、次のようなデメリットがありました:
- 動画ごとの視聴数の減少
- 多言語化のため、編集作業が10倍ほど増加
- YouTubeアップロードの容量制限の問題
ところが2023年初頭、YouTubeは、外国語への吹き替え音声を、音声トラックとしてオリジナル動画に統合(つまりオリジナルの動画上で、設定を変更するだけで、複数の言語の吹替版が視聴できるようになった)する、「多言語音声トラック機能」を導入。これにより、YouTubeは市場に革命を起こし、主要な競合他社とのリードを圧倒的に拡大、国際化、視聴数の集中化を実現し、企業を更なる成長へと導きました。
この新しい機能はまず、少数の人気クリエイター(最初の対象はMr.Beast)の動画でテストされ、今後徐々に拡大される予定です。今年の1月だけでも、ネットユーザーが視聴した1日あたりの平均閲覧時間は、200万時間以上にも及びます。今後、この機能は数千人の人気クリエイターに適応される予定ですが、現時点では40以上の言語で、3500本以上の多言語動画が公開されています。
“1動画で複数言語“の視聴を可能とする新機能が、全ての動画に適応されるようになるのは、もはや時間の問題と言えるでしょう。
吹替版はどうやって制作されるの?
吹き替えのプロセスは、大まかには次の4つです:
- テープ起こしにより、セリフをテキスト化
- テキストを翻訳
- 吹替版の音声を収録
- YouTubeの編集を通じて、音声を動画に統合
実際の制作プロセスはもう少し複雑なので、アテナオがアミクセムの動画の吹替版を制作した際のプロセスを、もう少し後で詳細にご説明します。
視聴者が、これまで言語の壁に阻まれて視聴することができなかったコンテンツにアクセスするためのステップは、簡単です:
動画の画面下「設定」ボタンを押し、「音声トラック」タブから希望する言語を選択することで、吹替版を視聴できます。
アテナオとアミクセムは1つのいかだに乗り込んだ!
アミクセムの動画の英語吹き替えプロジェクトは、アテナオが2023年中に携わったプロジェクトの中でも、最もエキサイティングな試みの1つでした。
チャンネル登録者数822万人、動画数863本、累計再生回数約29億回を誇る人気クリエイター、アミクセムは、フランスのトップ10 YouTuberの一人で、ランキングは6位から8位を推移しています。そのため、アミクセムから英語吹き替えの依頼を受けた際、アテナオのチームは一同、飛び上がって喜びました。しかも、フランス初となる、YouTubeの多言語音声トラック機能を使った吹き替えです。それを、アミクセム側から依頼されるという名誉に対し、チームの意気込みはただならないもので「ウケの取りこぼしや、吹き替えのせいで発生するスベり」はどんなに小さな規模でも起こさない、完璧な結果を出す、という目標を設定しました。
人気YouTuberのエンターテイメント動画を完璧なクオリティで吹き替えることは、並大抵のことではありません。 なお、アミクセムの動画には次のような特徴がありました:
- 常に4名が登場して喋ること
- 喋るスピードが極めて早いこと
- ジョーク、ダジャレ、ブラックジョーク、言葉あそびが多く使われていること
- 擬音語と効果音が頻繁に使われていること
- カット数、つなぎのカット、場面の推移が非常に多いこと
しかしアテナオには、膨大な外国語吹き替えの実績があり、そのワークフローも確立されているという強みがあります。まずバックプランを作成し、声優を選出、クライアントへの提案・承認を経て、制作に取りかかりました。なお、声優は次のような基準で選出されました。
- 主役でクールなリーダー役のアミクセムには、ウィットに富み、スピーディーなテンポで滑舌よく話せる、喜劇俳優。
- モータースポーツとDIYが得意で、4人の中で一番手先が器用。いつも問題解決のヒントを提供するエティエンヌ役には、自信たっぷりで男らしい声のコメディアンを起用。
- 本職が芸人のトマは、手先が不器用なツッコミ役。いつも文句を言っては小難しいジョークを連発する役です。彼には、展開の速い笑いにも十分に対応できる、コメディアンを選びました。
- 注意力が散漫で、次から次へとボケをかます哲学者役のトマには、要所要所でパンチが効いていながらも、ソフトな口調のコメディアンを起用。
- 存在感が薄いステファン(ゲスト出演)は、いじられ役。彼の声には、上記の中の1名を起用。(誰だかわかりますか?)
アミクセムに、このキャスティングを提案すると、二つ返事でOK!!が出ました。
翻訳チームの選定から収録まで
吹き替え翻訳は常々、翻訳の中でも難関分野とされてきました。通常の翻訳やトランスクリエーション翻訳は全く適応できず、人間の高度な翻訳能力のみが頼りになる作業です。吹き替えの翻訳には制約が多いため、翻訳の難易度は必然と高くなります。次のような条件を全て満たすことができて、初めて、クオリティの高い吹き替えは成立します。
- 発言タイミングの遵守:言語によって、喋るスピードや間合いは異なりますが、この点を踏まえつつ、オリジナル動画と同じ自然な掛け合いとなるよう、セリフの長さを調整しながら翻訳します。いうまでもなく、軽微なものであっても、タイミングのズレや空白の発生は許されません。
- リップシンク。ボイスオーバーに近い吹き替えですが、翻訳者は、話者の口の動きとセリフが、吹替版でもほぼ完全にマッチする尺でセリフを翻訳することが求められます。
- 国が違えばノリや笑いのツボも違いますが、このギャップを自然に埋め、オリジナルバージョンの雰囲気を、吹替版でも再現することが求められます。
- ジョーク、ダジャレ、言葉遊び、リアクションや擬音語の翻訳は、大変難関です。しかし、この翻訳を如何に上手く行えるかが、アテナオの翻訳者の腕の見せ所でもあります。
技術的な作業プロセスとしては、翻訳者が同一セグメンテーションを得るために、吹替音声と字幕を同時進行で作成しながら、マトリクスを作ります。(二重翻訳を避けるため)。その後、出来上がったマトリクスをコンピュータ支援翻訳ツール(通称CATツール)に読み込みます。
このマトリクスには、次の項目が盛り込まれます:
- 翻訳するテキスト
- 各出演者のセリフの色分け
- 背景や流れに関する情報
- どの様なトーンで吹き替えるかのコメント
- 吹き替え版でも再現すべき効果音(笑い声、泣き声、歌、雑音など)に関するコメント
翻訳テキストと台本をクライアントが確認し、内容が承認されたら、次はマトリクスと音声トラックを元に、声優が動画に合せて声を吹き込み、1つのオーディオファイルを作成します。この作業が完了した段階で、品質チェックおよび必要に応じた修正作業を行い、クライアントによる確認に入ります。
その後、必要とされる箇所の部分的な再録音が行われ、タイミングの調整と最終全体チェックを経てから、オリジナル動画の声と口の動きに合わせて、吹替版の声を吹き込みます。
今回のプロジェクトで想定外だった点:
- アミクセムが喋るスピードは、イントロの部分が特に速く、吹替版の喋るスピードの調整に高い技術が必要とされた点
- 4名の出演者が同時に喋りながら笑う際の、笑い声の再現
- フランス語にしか存在しない言葉や表現が含まれていた点
- 雨の音や叫び声などで、喋り声がかき消される部分の微妙な再現
- 幸いなことに、出演者はそれぞれマイクをつけていたので、ベースとなる音声トラックは、出演者ごとに作成することができました
ミッション、コンプリート!
2023年6月25日に、吹替音声トラックが組み込まれたアミクセムの動画が公開された直後から、うなぎ登りに上がる視聴数、殺到するコメントの数、押し寄せるかの様な反響の勢いに、アテナオのスタッフは一同、圧倒されました。
この動画の再生回数は2ヶ月で451万回を突破し、22万人がライクしました。そして、我々が制作した吹替音声トラックに関して寄せられたコメントは高評価なものばかりで、制作スタッフは皆、安堵と歓喜に湧きました。
吹替版も最高だった。他の動画の吹替版も、出したら成功間違いなし。(このコメントに対して21ライク)
英語版はマジ草wwwこうやって視聴者を拡大できるのは、面白いしクールだね(このコメントに対して2000ライク)
この試みはヤバい。英語の吹替音声を組み込むって、最高にアツい考えじゃない?アミクセムは明らかにフランスのMr.Beastだね❤️(このコメントに対して1200ライク、21コメント)
英語に吹き替えてくれてホントにありがとう!フランス語喋れんアイルランド人のダンナと観れた。
英語版しぬクオリティ高し英語しかわからん奴らに最高のギャグを届けるため、ここまでやってくれて感謝。(1ライク)
吹き替えは誰のため?何のため?
YouTubeにおける多言語音声トラック機能の登場は、すべてのクリエイターに新たな可能性を与えるものです。YouTubeが今後、世界各国の多くの視聴者を惹きつけることで、その地位をより高めることができる一方、クリエイターは簡単に世界中の視聴者にリーチすることができるようになります。アテナオの様な、単なる通訳・翻訳会社を超えた「多言語サービスプロバイダー」は、YouTubeがじきに展開する予定の「AIによる自動吹き替え」に押される可能性があるとしても、機械には絶対に実現できないクオリティの吹き替え音声を提供できます。
私たちはAIによる吹き替えも精査に分析していますが、今回YouTubeの多言語音声トラック機能に関わることで、動画の吹き替えには、人間にしか到達できないレベルがあることを確信しました。
これは、国際的なコンテンツを提供するすべてのクリエイターにとって、吹き替え版の制作が当たり前になる可能性を意味しています。
そして、その視聴の快適さから、今後、吹替版の音声トラックが、字幕に取って代わる可能性も考えられます。
動画配信サイトにおいて、今までクオリティの高い吹き替えを聞いたことがないという視聴者は、全体の90%にも及びます。しかし彼らこそが、この新しい多言語音声トラック機能の未来のユーザーです。
高いクオリティーでのグローバル配信を求めるクリエイターの方に、アテナオは満足にお応えできます。動画の多言語音声トラックの制作をお考えの方はまず、こちらから見積もりをご依頼ください。