言葉とともに心も伝える ― 逐次通訳の魅力と技術
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言葉とともに心も伝える ― 逐次通訳の魅力と技術

逐次通訳(ちくじつうやく)は、長い歴史を持つ通訳の代表的な方法です。通訳者は話し手の発言をひとまとまりで聞き取り、メモを取りながら内容を理解し、話し手の区切りに合わせて別の言語で伝えます。一見すると簡単な作業のようですが、実際には「聞く」「分析する」「覚える」「話す」という複数のスキルを同時に使う、高度な技術です。

逐次通訳は、同時通訳のように特別な機材やブースを必要としません。ノートとペン、そして十分な準備があれば、二者間会議、外交交渉、記者会見、公式訪問など、さまざまな場面で柔軟に対応できます。

最大の魅力は、高い精度を保ちながら、自然で人間味のあるコミュニケーションを実現できることです。通訳者は話し手の声のトーンや雰囲気を大切にしつつ、内容を正確に、そして滑らかに伝えます。一方、同時通訳とは違って発言と訳出を交互に行うため、どうしても「時間がかかる」という側面があります。そのため逐次通訳は、スピードよりも正確性が求められる場面に特に適しています。

逐次通訳のしくみと技術

逐次通訳は、通訳者の高度な認知処理によって支えられています。
通訳者は、聞いた内容から重要な情報を見極め、構造を整理し、それを別の言語で自然に表現する作業を連続して行います。

メモ取り ― 記憶を助ける「地図」

メモは逐次通訳の大切な要素ですが、発言を書き写すものではありません。記号や図、配置の工夫によって、情報の関係性や流れを素早く可視化し、記憶を補助する役割を果たします。
最終的な訳出の質を決めるのはメモそのものではなく、話の筋道を頭の中で再構築できる力です。

記憶力 ― 数十秒から数分を保持する

通訳者は数十秒から数分間の情報を覚え、漏れなく訳す必要があります。要点をつかむ練習や言い換え、イメージ化などのトレーニングによって、この短期記憶の能力が鍛えられます。

表現力 ― 聞き手に自然なスピーチとして届ける

訳出は単なる言語の置き換えではありません。通訳者は話し手の代わりとなり、内容だけでなくトーンやテンポ、意図までも再現します。はっきりした発声、抑揚、自信ある態度が求められ、「通訳を聞いている」のではなく「自然なスピーチを聞いている」と感じてもらえることが理想です。

 

逐次通訳のメリットと限界

  • メリット

高い精度で伝えられる
内容を十分に理解したうえで訳すため、論理を整えたり補足したりする余裕があり、正確性に優れています。

自然で温かみのあるコミュニケーション
機材を介さず、話し手の雰囲気や存在感を保ったまま伝えられるため、より人間らしいやり取りが可能です。

機材不要で柔軟に対応できる
場所を選ばず、さまざまなシーンで活用できます。

この3点は、同時通訳にはない大きな強みです。

  • 限界:

逐次通訳の最大の課題は、時間がかかることです。
話し手と通訳者が交互に話すため、発言時間はほぼ2倍になります。会議の進行管理が重要になるほか、話し手が適切な長さで区切るなどの協力も欠かせません。
また、通訳者は聞く・記憶・メモ・内容整理・発話を同時に行うため、高い集中力と認知処理能力が必要です。

このような理由から、逐次通訳はスピードよりも正確性が求められる場面に特に適しています

逐次通訳の習得法

逐次通訳者としてしっかりスキルを身につけるには、継続的なトレーニングが欠かせません。学習の流れにはいくつかの段階があります。

  • 聞く力(アクティブリスニング)を鍛える:
    話の要点をつかみ、論理的なつながりを把握し、必要な情報と不要な情報を聞き分ける練習をします。
  • 短期記憶のトレーニング:
    メモを取らずに、短い発言を徐々に長くして覚えて訳す練習で、記憶力を鍛えます。
  • メモ取りの技術(ノートテイキング):
    自分専用の記号や書き方を工夫し、情報を素早く整理して記録できるようにします。
  • 訳して伝える力(発表力)の強化:
    姿勢、発声、滑らかな話し方、ターゲット言語での表現力を総合的に向上させます。

大学や専門機関では、聞く力・記憶・メモを段階的に訓練する方法や、まず聞く力を徹底し、後からメモ技術を導入する方法など、さまざまなアプローチがあります。
どの方法でも、上達の鍵は 継続的な練習自分の訳出の振り返り です。

おわりに

2025年の現在でも、逐次通訳は国際コミュニケーションに欠かせない重要な技術です。
正確さ、柔軟さ、記憶力、分析力、原文への忠実さ、分かりやすい表現――こうした複数の能力のバランスによって成り立っています。

とりわけ大きな強みは、人間らしさ にあります。
逐次通訳者は、話し手と聞き手のあいだに立ち、両者を直接つなぐ存在です。
学ぶ人にとっては高度な知的訓練の場となり、プロにとっては細やかなニュアンスまで丁寧に伝えられる信頼性の高い手段となります。そして聞き手にとっては、言語の壁を越えて「相手と分かり合うこと」の大切さを実感させてくれる方法でもあります。