仏ラジオ・テレビ局BFMに向けたライブ同時通訳
去る4月20日、BFM局の番組「Live Toussaint」にハリコフ市長イーホル・テレホフ氏を迎えるにあたって、多言語コミュニケーションに特化したAtenaoがフランス語通訳を依頼されました。
熟練の通訳/翻訳家にとっても、紛争にまつわる通訳と翻訳には特別な注意が要されます。翻訳サービスを専門とするAtenaoは、各国の人々と異文化間の橋渡しとなり、対話と相互理解を促し、平和や和合に貢献することを理念としています。
リンヌ・フランジエ(Lynne Franjié)は、自著「戦争と翻訳、戦争について翻訳し、表現すること(仮訳)」において、戦時下に翻訳者としていかに平和に寄与できるか問いかけます。プロの翻訳者はいかにして平和主義者、平和仲裁者の立場を担うことができるのか考察しています。たとえ戦争そのものに実際的なインパクトは及ぼせないとしても、「テキストによる平和」を創出することは可能なのか自問しています。
国際紛争下においては、翻訳者の役割がいっそう重大性を帯びます。飛び交うオピニオンの中継地点として、原文に忠実に伝えるという大切な任務を果たさなければなりません。解釈上のミスは、致命的な結果を招きかねません。かつて、日本語の「MOKUSATSU」ということばが誤って解釈されたことにより、原子爆弾投下という悲劇の史実を生み出したことを忘れることはできません。
戦時下の通訳は非常にテクニカルな作業であり、トランスクリエーションや文体の美化を一切排除した究極の厳密さが求められます。
BFM局の依頼を受けたAtenaoにとっての焦点は、戦争がテーマであることから解釈上の誤りが容認されないこと、そしてライブ中継でハリコフ市長のことばをウクライナ語からフランス語に同時通訳するという状況にありました。事前の準備やプランニングなしに、談話に関する予備知識を一切もたない状態で高い発話数にのぼる談話を通訳することが要されました。これは、未知の戦争の世界にいきなり飛び込むような体験になぞらえられるでしょう。
今回は、Live Toussaintの視聴者各位に向けて、イーホル・テレホフ氏の談話内容を正確にお伝えすることができました。